クロスオーバーデザインについての、備忘録も兼ねた勉強メモ。
あくまで「基礎」ということで、実薬の効果を示すためのプラセボ対象2×2デザインを例にとります。
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クロスオーバーデザインとはどのようなデザインか?
2群比較において、第1群に対してはプラセボ→実薬、第2群に対しては実薬→プラセボを投与する試験となります。比較は両軍それぞれの「実薬投与時」−「プラセボ投与時」を比較します。あくまでも第1群と第2群の比較を行うことに留意してください。(両群の「実薬投与時」−「プラセボ投与時」を併合することはできません。)
比較の方法は「クロスオーバーデザインでは何をどのように比較しているのか?」をご参照ください。

上図の「Washout」期間とは、第I期に投与した薬の効果が切れるまでの期間です。この期間をしっかりとおかないと、第II期の効果に第I期に投与した治験薬の効果が乗ってしまいます。第II期に残った第I期の効果のことを「持ち越し効果(carry over effect)」と呼び、除去しないと正しい結果を得ることができません。EMAの同等性試験ガイドライン(引用文献1)によるとWashout期間は少なくとも半減期の5倍は必要とのことです。(ちなみに、第I期がプラセボでもWashout期間は必要です。プラセボにも効果があると考えますので、間違えないようにしてください。)
クロスオーバーデザインのメリットは?
同一被験者のデータを引くため、個体間分散を打ち消せること(精度の向上)がメリットとなります。このことは、必要症例数を少なくすることが可能となることを意味します。その為、クロスオーバーデザインは症例を集めにくい疾患などの試験に用いられます。
クロスオーバーデザインの注意点は?
症例数を少なくできるのは大きなメリットですが、注意点もあります。
- 短期間で治癒または軽快する疾患には使えない
- 試験期間が長くなる。(脱落が多い。被験者管理が大変。)
<短期間で治癒または軽快する疾患には使えない>
第I期で治癒してしまっては、第II期の試験ができません。軽快して状況が変化してしまうような場合も、比較可能性を失います。第I期で治療効果がみられた場合も、第II期開始時には元の状態に戻っていることが必要です。慢性疾患のコントロールや、回復・軽快までに1年などの長期間を要する疾患にクロスオーバーデザインは向いていると言えるでしょう。
<試験期間が長くなる。(脱落が多い。被験者管理が大変。)>
一人に2種の治験薬を投与、さらにWashout期間も入ることから、必然的に試験期間は長くなります。試験は長ければ長いほど、脱落が多くなってしまうため、被験者の管理が大変になります。そもそも長時間となると、被験者のリクルートが困難になってくるかもしれません。
クロスオーバーデザインのメリットは被験者数を減らせる事でしたが、それは試験における1例の価値が大きくなるとも言えます。にもかかわらず、脱落する可能性が高くなってくるデザインというのは、クロスオーバーデザインの大きなジレンマです。
クロスオーバーデザインはどのような時に用いるのか?
先のメリットの項でも述べましたが、被験者数が少なくて済むため、被験者を集めにくいような対象疾患の時に用います。しかしながら、デメリットの項で述べたとおり、(少数症例とは相性の悪い)脱落数の増加が見込まれます。
これらのことを考えますと、患者の少ない疾患など被験者のリクルートが困難な場合がクロスオーバーデザインを用いるべき時となります。言い換えると、クロスオーバーデザインでないと臨床試験が成り立たない場合についてのみ、用いるデザインと言えます。単に被験者数を少なくしたいから(費用を抑えたいから)、という理由で用いるデザインでは無いと考えられます。
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今回はここまでです。
次回は2回目「クロスオーバーデザインでは何をどのように比較しているのか?」になります。
【引用文献】
1)EMA、「GUIDELINE ON THE INVESTIGATION OF BIOEQUIVALENCE」、20Jan2010